[3] チェーンホイスト等における感電事故防止のための基本マニュアル |
平成14年9月10日
電気事故の総件数は、労働災害全体の1%程度にすぎませんが、その死亡率は極めて高く、死亡事故は、全死亡事故の7〜10%を占めています。ま
た、電気による傷害はその性質上、身体組織に壊死を生ずることが多く、死亡を免れても後遺症を伴うことが多くあります。特に高所作業中において電撃を受け
ると、たとえ直接的な感電災害を免れたとしても、反射運動による墜落などに結びつくことが多く、極めて危険な事故となり得ます。
医学的には、感電は呼吸麻痺や心臓麻痺に陥る恐れがありますが、神経構造を焼かない限り、長時間の人工呼吸と心臓マッサ−ジによって回復することが多くあります。
生命に直接危険をおよぼす因子としては、重要器官を通じる電気量(電圧x電流x時間)が決定的な要素となります。
一般に、電撃の危険度は、電圧よりもむしろ電流の値で決まるようですが、その限界は各人の体質や健康状態で異なり、それには次のような目安があります。
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したがって、10mA以上は危険と考えることができます。例えば、100Vに触れた人体の条件が、表皮1cm2当り1kΩであったとすれば(水で
濡れた場合はこの位の値になり得る)、接触面積1cm2当り100mA流れることになり、もしそれが手から足へ抜けるような通電経路であったとすると、そ
れは直ちに死にいたる電気量です。
一方、人体に流れる電流も当然オ−ムの法則に従うため、危険度は電圧にも依存します。電撃傷の発生電圧は一般的に100V以上が多く、200V以
上は危険、500V以上は致命的であるとされています。しかし、65Vで死亡した例もある反面、3300Vの感電でも軽度の障害にとどまった例もあるた
め、電圧のみで危険度を論じることは困難であり、むしろ人体の表皮の状態に大きく依存していると考えられます。
一般に、人体の表皮の抵抗値はかなり高く、乾燥さえしていれば1cm2当り数十kΩですが、汗をかいていたり、また雨などで濡れていると、その抵
抗値は300〜1kΩ程度に下がります。この表皮の下部組織は非常に低い電気抵抗値のため、触電時の人体の電気抵抗値は表皮の条件で決まります。つまり、
汗をかいたり雨に濡れたりしていると、乾燥時の100倍もの電流が流れる可能性があるということです。
◎感電事故を防ぐための最も有効な手段は、「何をおいてもまずグラウンドをとる」(注)こと。
舞台制作における3大要素を、舞台・照明・音響とすると、近年、照明・音響のシステムはすべからくグラウンドを施す方向で進んでいます。これに対
して、チェーンホイストのシステムのグラウンドがとられていない事例を目にすることが多くあります。一般論として、電気を使用するふたつの異なった(
アイソレートされた )システムが存在するとき、両者の電気的な共通ポイント( =グラウンド
)を設けない場合は、両者のシステム間に静電結合などによる電位差が必ず発生します。(
これは古くから、ギタリストのマイクロフォンによる感電で、よく知られています。
)このような状況下で作業をする時に、下記に示す感電事故が発生する可能性があります。
【トラスとチェーンホイスト間での感電事故】 |
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( 上記の例でいう、トラスと、グラウンドのとれていないホイスト間の電圧です。)
但し、この電圧は、静電結合や電磁誘導によるものであるため、内部インピーダンスがきわめて高く、示された電圧値自身が測定器の入力インピーダン
スに依存するものであり、電流を流す能力自体は小さく、この電圧で直ちに感電するわけではありません。しかし数多くのモーターが使用される場合は、電源に
対して並列接続されることになり、結果的に内部インピーダンスは下がり、それに反比例して電流値は大きくなるので、感電の危険性は高まるといえるのです。
【ホイストの筐体と、グラウンドとの電位差】 |
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※このことから、CM Lodestar Electric Chain Hoist の電源スイッチは、片切りスイッチであることもわかる。
したがって、グラウンドがとれていない場合、ホイストが停止状態の時でも感電事故の可能性がある。
※ 電源が正しく配線され、電圧が正しいことを、目と測定器の両方で確認する。
※ 通電部分が露出しないように絶縁を施し、更に付近に導電性のものを置かない。
※ 通電の際は、その通電先の担当者に必ず声をかけ、許可を得てから行う。
※ 通電中のグラウンドの抜き差しは絶対に行わない。
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